矯正の基礎知識

通常前歯の数は上下それぞれ6本ですが、顎の骨が小さいとスペース不足のために6本の歯がきれいに並びきることができません。この場合、通常次のいずれかの状態になります。
一つ目は限られたスペースに歯が互い違いに生えてきます。この状態を乱杭歯(叢生)と言います。





二つ目はスペースがないので前歯全体が前方に逃げて飛び出した状態になります。上が出ると出っ歯(上顎前突)に、下が出ると受け口(下顎前突、反対咬合)になります。両方とも出ると、一見正常に見えますが口元全体が前に出て膨らんだ状態になります。これを上下顎前突といいます。


そして多くの場合、一つ目と二つ目が合併しています。例えば「叢生を伴った上顎前突」のような状態です。

いずれの場合も治療法としては、どこかの歯を抜歯してスペースを作るか、歯と歯の間を少しずつ削って隙間を作ることによって移動スペースを作り、そのスペースを利用して歯を並べたり、引っ込めたりします。
乱杭歯(叢生)の程度が軽い場合は、左右の犬歯を少し外側に移動させて残り4本の前歯を並べるスペースを作ることにより、抜歯したり歯を削ったりすることなく矯正できることがあります。

奥歯を後ろに動かすことにより前方に移動スペースを作る方法もありますが、治療が困難な割には得られるスペースが僅かなため、当院ではほとんど行いません。

以上が、叢生、上顎前突、下顎前突、上下顎前突の基礎知識です。わかりやすくするために問題を前歯だけに絞って説明いたしました。ご理解いただけましたか?

不正咬合(悪い歯並び)には、このほかに前方の歯が咬み合わない(開咬・オープンバイト)、咬み合わせが深い(過蓋咬合)、歯と歯の間に隙間があるすきっ歯(空隙歯列)、歯が生えてこない(萌出不全)などがあります。詳しくは下のイラストをご参照ください。


子供の矯正(一期治療と二期治療)

乳歯列や混合歯列(まだ乳歯と永久歯が混合している歯列)に行う治療を一期治療(咬合誘導)といいます。この時期は顎の骨が成長途中です。一期治療では装置を使って顎の正しい成長を導く治療をしたり、指しゃぶりや口ぽかんなどの悪習癖を取り除いたりして、永久歯が正しく生えてくるように誘導します。通常永久歯になってから矯正を始めると、抜歯が必要になることが多いのですが、一期治療を行うことにより抜歯の必要性が低くなります。また、一期治療だけで終了となることもよくあります。

一期治療を終了し、永久歯列になってから行う治療を二期治療と言います。二期治療を行うかどうかは、一期治療終了時に保護者の方と相談して決めます。二期治療は多くの場合、大人の矯正のように全ての歯にブラケットを付けて行います。一期治療から始めた方は、抜歯の必要がなくなったり、治療期間が短縮されるなど、多くのメリットがあります。また、一期治療終了時に、理想的とまでは言えないけれど、ほとんど気にならない歯並びになっていて、治療終了となることもよくあります。

プレオルソこども歯並び矯正法

一期治療で使用される装置には多くの種類があり、それぞれ一長一短があります。当院でも以前は様々な装置を使用していましたが、最近ではほとんどの症例でプレオルソというマウスピースを使用しています。プレオルソにはいくつかの種類がありますが、歯並びの状態に応じて使い分けます。

使い方は簡単です。学校から帰ったらプレオルソを装着します。食事の時ははずしますが、それ以外は就寝時もずっと装着しておくのが基本の使い方です。基本の使い方以外に、就寝時だけ使うとか、2日に1回使うとか、使い方にもバリエーションがあります。3ヶ月に1回ご来院いただき、経過観察と使い方の指導をいたします。たったこれだけです。費用もとてもリーズナブルで財布にやさしい矯正治療です。ただし、これが使えるのは12歳くらいまでです。それ以降は通常の矯正治療となります。

これがプレオルソです

それでは、子供の矯正について症例をいくつかお見せいたします。

症例1(乳歯の反対咬合)

乳歯の受け口(反対咬合)です。このような状態を放置すると顎の正しい成長に影響を及ぼします。このような状態の方は早めの治療をお勧めします。右(スマホでご覧の場合は下)はプレオルソ使用後3ヶ月の状態です。反対咬合が改善しました。

1年半後です。プレオルソを使い続けていたので、永久歯も反対咬合にならずに済みましたが、乱杭歯(叢生)の状態です。
さらに1年半使い続けました。叢生もほぼ改善しました。この症例は二期治療(本格矯正)をすることなく治療終了となりました。治療期間を通じた治療費は合計10万円程度ですみました。

症例2(永久歯の反対咬合)

この患者さんはすでにほぼ全ての歯が永久歯に生え変わってしまっています。本格矯正をすると一般的には最低でも50万円くらいはかかります。治療期間も2年くらいかかります。12歳だったのでもう遅いのですが、プレオルソを使ってみました。
半年後、見事に改善しました。治療期間は約半年、治療期間を通じた治療費は合計は6万円くらいですみました。

症例3(永久歯の叢生)

上下とも前歯が互い違いに生えている叢生の状態です。プレオルソをを使用し、3ヶ月後には右(スマホでご覧の場合は下)のように改善しました。治療期間を通じた治療費は5万3千円でした。


症例4(永久歯の上顎前突)

出っ歯(上顎前突)の状態です。プレオルソを使用し、4ヶ月後にはこの程度の状態に改善しました。これまでの治療費は5万3千円でした。

上顎前突に対する早期治療は以前は普通に行われていましたが、最近は矯正専門医の間でも賛否両論があります。私は矯正専門医ではありませんのでここで意見を述べるつもりはありませんが、上顎前突に対する早期治療は世界中で多くの小児に対して普通に行われており、良好な結果が得られています。

下に学会の見解をリンクしておきましたので、興味のある方は読んでみてください。

日本歯科矯正専門医学会の見解

日本臨床矯正歯科医会の見解


プレオルソは大変優れた装置ですが、マウスピースを咬むだけの治療ですので、できることには限界があります。その場合、仕上げに部分的にブラケットを使ったり、全く別の装置をプレオルソと併用して使います。

症例5(八重歯)

叢生の状態です。7ヶ月半の間プレオルソを使用しましたが、八重歯の状態が残っています。八重歯はプレオルソでは改善しにくい状態のひとつです。

プレオルソと併用して部分的にブラケットを装着し、半年後の来院時には改善していたのでブラケットを除去して終了としました。治療期間は1年1ヶ月、治療期間中にかかった費用は合計10万円強でした。


症例6(交叉咬合)

上の歯が下の歯に覆いかぶさるように外側にあるのが正常な状態ですが、これが部分的に逆になっているのが交叉咬合です。
左側(向かって右側)の奥歯は上の歯が内側で下の歯が外側になっています。このような状態を交叉咬合といいます。下顎全体が左(向かって右)方向に偏位しているので、下顎の真ん中(正中)は左(向かって右)にずれているのが分かりますね。成長期にこの状態になっていると顎の成長が正常に行われなくなり、顔が変形したり、顎関節に障害が出やすくなります。すぐに治療する必要がある状態ですが、プレオルソでは治すことができません。


プレオルソを使いながら、上顎に写真のような装置を装着しました。この装置はポーター装置といいます。右(スマホでご覧の場合は下)の写真は改善後の写真です。交叉咬合が改善するとともに、上下の顎の真ん中(正中)のずれも改善されました。治療期間は約1年、治療期間中にかかった費用はプレオルソも含めて合計8万2千円でした。

いかがでしたか。矯正は小児期に一期治療から始めると非常に簡単に、しかも財布にやさしい費用でできてしまいます。顎の成長を利用して行うので後戻りも少なく、抜歯の必要性も低くなります。そして、永久歯列になってから行う二期治療さえも必要なくなることもよくあります。歯並びが少しでも気になる方は早めの相談をお勧めいたします。

大人の矯正(永久歯の矯正)

全ての歯が生え変わってから行う矯正治療は、全ての歯にブラケットを付けて行う通常の矯正治療になります。治療方法については「矯正の基礎知識」でご説明しましたのでそちらをご覧ください。

それでは、永久歯の矯正について症例をいくつかお見せいたします。

症例1(乱杭歯、叢生)

小臼歯を上下2本ずつ合計4本抜歯し、ブラケットを付けて治療しました。治療期間は1年3ヶ月でした。

症例2(出っ歯、上顎前突)

上顎の小臼歯を1本抜歯し、上下にブラケットを付けて治療しました。
治療期間は1年9ヶ月でした。

症例3(受け口、反対咬合)

上の歯にブラケットを付けて治療しました。抜歯はしていません。まだまだ歯列に乱れはありますが、ご本人の希望によりこれで治療終了としました。治療期間は8ヶ月でした。

このような症例は紹介します

当院では多くの患者様の矯正治療を日常的に行なっておりますが、私(院長)は矯正専門医ではありませんので、できる症例には限界があります。次のような症例は来院いただいてもできませんので、矯正専門の歯科医院に紹介することになります。予めご了承ください。

永久歯列の開咬・オープンバイト

前方の歯が咬み合っていない状態です。永久歯になってからの開咬の治療はとても難しいです。さらに、開咬の原因として上下の歯の間に舌を入れる弄舌癖などが関係しており、治療後の状態を維持するのに困難を極めます。

顎変形症

顎変形症とは要するに通常の矯正治療では対処できないような状態のことです。多くは外科手術を伴う治療になりますので入院が必要です。顎口腔機能診断施設として厚生労働省に登録されている施設であれば保険適応になります。

顎変形症の方の中には入院して手術してまでは矯正したくない、今より少しでも改善できれば良いという方もおられます。そういう方の場合はご相談の上、当院で妥協的な治療を行うことはありますが、まずは顎口腔機能診断施設として登録されている矯正専門歯科医院にご相談されることをお勧めします。

その他難症例

当院では大抵の症例はお受けし、リーズナブルな料金で矯正治療を提供しております。矯正専門歯科医院に紹介することはまれではありますが、私にとって難症例と思われる症例は迷わず紹介することにしていますので、予めご了承ください。

治療終了のご相談について

矯正治療は治療が長期間に及びます。全額にブラケットをつける矯正では一般的な治療期間は2〜3年くらいですが、それ以上かかることもあります。患者様の気になるところは早期に改善しているにもかかわらず、私たち歯科医師から見るとまだまだ治療終了とはというわけにはいかないという状態が長期に続くこともよくあります。それは患者様の求めるゴールと私たち歯科医師の求めるゴールが一致しないことが原因です。当院では患者様がその時の状態に満足され、早く終了することを希望される場合は患者様のご希望を尊重し、治療終了とすることもあります。治療のゴールについては私たち歯科医師のゴールを押しつけることなく、可能な限り患者様のご希望を尊重して決めていきますので遠慮なくご相談ください。

次の項目


こまい歯科医院
〒891-0102 鹿児島県鹿児島市星ケ峯4-14-1
099-284-7207